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高知地方裁判所 昭和63年(ワ)165号 判決 1991年12月24日

原告 森下正道

右訴訟代理人弁護士 細木歳男

被告 有限会社 四国サーキット

右代表者取締役職務代行者 山下訓生

被告補助参加人 竹本重雄

右訴訟代理人弁護士 池本美郎

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告の昭和六二年二月一日被告本店においてなされたとする、別紙議事録記載の第一号議案資本増加の件、第二号議案定款変更の件、第三号議案取締役選任の件、第四号議案取締役、代表取締役及び監査役選任の件の各決議(以下、別紙議事録を本件議事録といい、右各決議を本件決議という。)は存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告、被告補助参加人)

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、四国節電有限会社の商号で、節電機器の販売等を目的とし、資本総額金三〇〇万円、出資口数三〇〇〇口、出資一口金三〇〇〇円、社員は原告及び橋田利雄、出資口数各一五〇〇口、代表取締役原告、取締役橋田利雄、監査役山脇憲雄として、昭和六〇年一二月一二日に設立、登記されたが、その後昭和六一年一〇月一日商号を現商号に変更し、目的に二輪車、四輪車の競技場経営、旅館並びに料理飲食店の経営及びこれらに付帯する一切の事業を加え、その旨同月三日に変更登記をなし、取締役に森岡信喜を加えて、同月一日就任、同月三日登記がなされ、その後同年一一月二九日に森岡信喜が取締役を辞任し、同日山本信次郎が取締役に就任し、その旨同年一二月一日それぞれ登記された。

2  右商号変更並びに目的変更をしたのは、昭和六一年四月ころから、被告において、高知県香美郡土佐山田町北滝本地区の土地四〇ヘクタール以上を買収して公認サーキット場を建設設置して、二輪車、四輪車の競技場を経営し、これに伴う旅館、料理飲食店を経営する事業を企画したからである。

そして、昭和六一年一二月一日には、土佐山田町長から被告の右事業に全面的に協力する、すなわち、右サーキット場の建設のため枢要な土地である土佐山田町開発公社(理事長は同町長)所有の山林約一五ヘクタールを被告に売却すること、右建設予定地の民有地の買収についても同町が協力し、かつ、サーキット場建設許可について関係住民の同意の取り付け等を含む行政上の処置(例えば、国土利用計画法に定める土地売買についての高知県知事に対する届出についての同町としての意見等)について全面的に協力する旨の承諾を得た。

そこで、原告は、被告の代表取締役としてサーキット場建設に必要な民有地の売買予約に手を付け、また、同年一二月一二日兵庫県西宮市所在の株式会社ジーエイ(代表取締役清水和彦)に右事業のための計画地の測量及び設計、開発許認可事務並びに社団法人日本自動車連盟公認レース場の認定を受ける事務を委託した。

3  しかし、右土地買収、サーキット場建設等には数十億円、規模の増大によっては一〇〇億円近くの莫大な資金を要するところから、原告が、東京都港区赤坂所在の山一興産株式会社(代表取締役山下正吉、以下、山一興産という。)に資金援助をする者の斡旋、指名を委任したところ、同会社は、補助参加人が代表取締役をしている大阪市東区瓦町四丁目四六番地の六所在のタケモト産業株式会社(以下、タケモト産業という。)を指名した。

そこで、昭和六二年一月二八日、被告、タケモト産業、山一興産との間で、被告が発案、計画した仮称四国サーキット場の設置建設等の早期実現の目的を達成するため、被告の代表取締役を原告から補助参加人に変更し、原告は、被告の取締役副社長に就任し、山一興産から専務取締役一名を出向させる、被告の役員、職員及び会社組織の編成は、タケモト産業の意思によって行うが、それは、被告の資本増資と事業資金の導入をタケモト産業が行うことを条件とし、補助参加人が被告の代表取締役に就任と同日にその実行を行うものとする、但し、事業資金の導入調達は、必要時に行う、被告の本事業の推進に関する費用は、別に定めた契約以外のものは別として、旅費、日当及び折衝費等は、タケモト産業と被告で支払うものとし、本事業によって得た収益金の配当については別に定めるものとする等を内容とする包括契約を締結した。

そして、そのころ、右包括契約により、補助参加人が被告の代表取締役就任を予定していたのと補助参加人の被告の代表取締役就任までに原告が被告の業務をほしいままに行わせないためか、補助参加人は原告に対し、被告の代表取締役の実印を預けるように要求したので、原告は右実印を補助参加人に預けた。

4  ところが、同年三月三日に至って、原告が他の必要から被告の商業登記簿謄本の下付を受けたところ、同年二月一日付けで被告の資本の総額を金一〇〇〇万円に増額変更し、取締役である原告、橋田利雄、山本信次郎は辞任し、監査役山脇憲雄も退任し、補助参加人のみが同日取締役に就任したとして、それらの登記が同月五日付けでなされていることが判明した。

驚いた原告は、右変更登記申請書、その添付書類の閲覧をしたところ、昭和六二年二月一日午前一〇時に被告の臨時社員総会を開催し(以下、本件総会という。)、本件決議をした旨の同日付け本件議事録が作成され、その作成者として議長たる原告名下に補助参加人に預けてあった被告の代表取締役の実印が冒捺され、取締役として補助参加人、橋田利雄、山本信次郎の記名押印があるが、右橋田利雄、山本信次郎名下の印影は、いずれも偽造の印鑑によるものであった。すなわち、補助参加人において、高知地方法務局に対し、右偽造の本件議事録を添付して、資本の総額を金一〇〇〇万円に増額し、右役員を変更する旨の登記申請手続をしたことが判明した。

5  しかし、右のような被告の本件総会を開催した事実は全くなく、従って、本件議事録記載のような本件決議がなされたこともなく、しかも、前記包括契約にも違反するものであるから、原告は、山一興産の代表取締役である山下正吉と交渉して、補助参加人をして右無効の登記の回復をさせるように依頼したが、補助参加人は、山下正吉の勧告に従わず、かえって、被告が売買予約をしていた土佐山田町土地開発公社所有地を同町長をして、同町名義に変更させ、同町とタケモト産業との間で、権利者をタケモト産業とし、売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を受け、関係民有地をタケモト産業名義で買い取って所有権移転登記を経由する等、被告の企画立案したサーキット場建設等の事業をタケモト産業において簒奪せんとする暴挙に及ぶに至った。

6  そこで、原告は、昭和六二年一二月二一日高知地方裁判所に、被告及び補助参加人を債務者として取締役の職務執行停止並びに職務代行者選任の仮処分の申請をし(昭和六二年(ヨ)第二六五号事件)、昭和六三年三月一六日その旨の仮処分決定を得た。

よって、右4の不実の登記の回復をする必要があるので、被告の昭和六二年二月一日になされたとされる本件決議の不存在の確認を求める。

二  請求原因に対する認否(補助参加人)

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は不知。

3  同3の事実のうち、タケモト産業が原告主張の包括契約を締結したこと、補助参加人が被告代表取締役の実印の交付を受けたことは認めるが、その余は争う。

4  同4の事実のうち、原告主張の各登記がなされていること、原告主張の本件議事録が作成されていることは認めるが、その余は争う。

5  同5の事実のうち、本件総会が現実には開催されていないこと、権利者をタケモト産業とする所有権移転仮登記、所有権移転登記がなされた土地があることは認めるが、その余は争う。

6  同6の事実のうち、原告主張の仮処分申請及び仮処分決定の存在は認めるが、その余は争う。

三  補助参加人の主張

1(一)  原告及び橋田利雄は、補助参加人に対し、本件総会を開催すること及び本件決議をなすことにつき、あらかじめ承諾を与えていた。

(二) 確かに、本件議事録では、「昭和六二年二月一日、被告会社本店所在地で本件総会を開催し、補助参加人らも出席して本件決議をした。」旨記載されているところ、現実には右の日時場所に補助参加人らが出席したことがないのは事実である。

(三) しかし、有限会社法では、客観的な総会開催の有無及びその招集手続よりも、総社員の同意の方が重視されることは明らかであり(例えば、同法四二条)、本件で最も重要なのは、本件総会開催の有無及びその手続ではなく、むしろ本件議事録に記載された事項につき全社員の同意があったか否かの点である。

(四) なお、昭和六一年一一月二九日の山本信次郎が被告の取締役に就任した際の社員総会も、総会開催の事実がないのにその旨の本件議事録を作成して取締役就任の登記をしているのである。

2(一)  委任契約書(甲第七号証の二)第一条、包括契約書(甲第七号証の一)第一条によると、原告及び橋田利雄は、被告の資本増加及び役員変更に関する全権限(社員総会の招集等の事務手続きを含む。)を山一興産の山下正吉もしくは同人の指定するものに委任し、同人はこれに基づき、補助参加人を指定したから、結局、補助参加人が被告の資本増加及び役員変更に関する全権限を委任されたことになる。

(二) また、原告は、被告の定款謄本、原告の白紙委任状、印鑑登録証明書、住民票、橋田利雄の印鑑登録証明書等の一件書類及び実印等を補助参加人に交付して、原告が被告の資本増加及び役員変更に関する全権限を補助参加人に一任したのである。

(三) そして、補助参加人は、本件委任契約書、本件包括契約書による原告ら関係者の資本増加及び役員変更に関する同意に基づき、昭和六二年二月一日午前一〇時被告本社において本件総会を開催したこととし、原告の代表取締役退任、資本増加、監査役の退任等の本件決議をした旨の本件議事録を作成した。

(四) よって、本件では、本件委任契約書、本件包括契約書が有限会社法四二条に定める書面に該当し、かつ、有限会社法では、書面による同意が総会決議と同一の効力を有するので、補助参加人が本件議事録を作成し、登記した行為は実質的には有効である。

3  原告の主張は、以上の実体関係を無視し、ただ形式的に昭和六二年二月一日被告で本件総会を開催した事実がない点だけをとらえて、本件決議不存在を主張するもので、仮に、総会にかわる書面による同意ないし口頭による同意が認められないとしても、本件決議の不存在を主張するのは権利の濫用として許されない。

4  原告は、遅くとも昭和六二年三月三日には、本件役員変更、資本増加を知っていたが、その後も補助参加人に抗議するどころか、補助参加人やタケモト産業のために奔走し、タケモト産業から多額の金員まで受領しているのであって、原告が本件決議をなすにつき同意していたことは、以下の事実からも明らかである。

(一) 国土法土地売買契約届出書(丙第二六号証の一ないし三)は、当時も現在も原告と一体関係にある山本信次郎がタケモト産業不動産部長新原栄一と相談しながら作成したものであるが、右各書面の買主欄には、「有限会社四国サーキット代表取締役竹本重雄」と明記されている。このことは、右各書面の作成日が昭和六二年三月二六日であるから、山本信次郎が補助参加人が被告の代表取締役に就任したことを承諾していたことを示している。

また、そのころ原告は、高知県知事から不勧告通知書(丙第四一号証)を受領しているが、ここにも「有限会社四国サーキット取締役竹本重雄」と明記されており、原告が当時何ら不服を唱えずにこの書類を受領しているのは、やはり補助参加人が代表取締役に就任したことを同意していたからである。

(二) 山本信次郎は、昭和六二年三月から同年一一月ころタケモト産業の手足となって本件国際サーキット場建設予定地の用地買収交渉に関与し、総額約九〇〇万円もの仲介手数料を受領している。

本件用地買収は、田村要が中心となり、その下に野々村大正、大西フサエ及び山本信次郎らがいて、これを行ったものであり、山本信次郎も他の三人とともに、仲介交渉に関与し、タケモト産業から多額の仲介手数料を受領しているものである。そして、本件用地買収は、被告ではなくタケモト産業が主体となって行っていたのであるから、山本信次郎は、タケモト産業の手足となって買収に関与し、右仲介手数料を受領した。

(三) 補助参加人は、国際サーキット場の建設運営を行うのに有限会社では支障があるため、昭和六二年五月ころから、新会社南国スカイサーキット株式会社の設立手続に着手し、その結果、同年六月には発起人会員の同意を得て、定款認証手続を完了したが、原告は、その過程で、同月一六日には、南国スカイサーキット株式会社の定款(丙第一四号証)に発起人として名前を連ね、自ら署名し、実印を押捺しているし、定款認証用の委任状にも自ら署名し、実印を押捺し、印鑑登録証明書を交付した。

(四) 原告は、昭和六二年二月から五月まで、同年一〇月から同年一二月までの間、本件役員変更の登記の存在を知った後もタケモト産業から送金されてくる毎月三〇万円の金員を受領していた。

(五) 原告は、昭和六二年一〇月一二日付で「陳謝及び釈明通知書」と題する書面をタケモト産業宛に送付してきたが、右書面では、原告が自己の非を全面的に謝罪し、「終わりに私は貴社が立派なサーキット場を建設される事を念願します。御指導と御高配があれば今後微力乍らサーキット場の建設に全力を傾中したいので山脇さん共々宜敷お願いします。」とまで述べている。

四  補助参加人の主張に対する認否

1(一)  補助参加人の主張1(一)の事実は否認する。

(二) 同(二)の事実は認める。

(三) 同(三)は争う。

(四) 同(四)の事実は否認する。

2(一)  補助参加人の主張2(一)は争う。

(二) 同(二)の事実のうち、原告が、被告の定款謄本、原告の白紙委任状、印鑑登録証明書、住民票、橋田利雄の印鑑登録証明書等の一件書類及び実印等を補助参加人に交付したことは認め、その余は否認する。

(三) 同(三)の事実のうち、補助参加人が、昭和六二年二月一日午前一〇時被告本社において本件総会を開催したこととし、原告の代表取締役退任、資本増加、監査役の退任等の本件決議をした旨の本件議事録を作成したことは認め、その余は否認する。

(四) 同(四)は争う。

3  補助参加人の主張3は争う。

4  同4の事実のうち、原告が、昭和六二年三月三日には、本件役員変更、資本増加を知っていたことは認め、その余は否認する。

5(一)  補助参加人の主張5(一)前段の事実は不知、後段の事実は否認する。

(二) 同(二)の事実は不知。

(三) 同(三)の事実のうち、原告は、南国スカイサーキット株式会社の設立の過程で、昭和六二年六月一六日に、南国スカイサーキット株式会社の定款(丙第一四号証)に発起人として名前を連ね、自ら署名し、実印を押捺していること、定款認証用の委任状にも自ら署名し、実印を押捺し、印鑑登録証明書を交付したことは認め、その余は不知。

(四) 同(四)の事実は認める。

(五) 同(五)の事実のうち、原告が、昭和六二年一〇月一二日付で「陳謝及び釈明通知書」と題する書面をタケモト産業宛に送付したこと、被告主張のような文言が記載されていることは認めるが、その余は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実、同3の事実のうち、タケモト産業が原告主張の包括契約を締結したこと、本件議事録が作成されていること、同4の事実のうち、原告主張の各登記がなされていること、同5の事実のうち、本件総会が現実には開催されていないこと、権利者をタケモト産業とする所有権移転仮登記、所有権移転登記がなされた土地があること、同6の事実のうち、原告主張の仮処分決定が存在することは、いずれも原告と補助参加人との間では争いがなく、被告においても明らかに争わないから自白したものとみなす。

二  本件総会は、現実には開催されていないのであるから、本件決議も、形式的には存在しないものといわざるを得ない。

そこで、補助参加人の主張について検討する。

補助参加人の主張1(二)の事実、同2(二)の事実のうち、原告が、被告の定款謄本、原告の白紙委任状、印鑑登録証明書、住民票、橋田利雄の印鑑登録証明書等の一件書類及び実印等を補助参加人に交付したこと、同2(三)の事実のうち、補助参加人が、昭和六二年二月一日午前一〇時被告本社において本件総会を開催したこととし、原告の代表取締役退任、資本増加、監査役の退任等の本件決議をした旨の本件議事録を作成したこと、同4の事実のうち、原告が、昭和六二年三月三日には、本件役員変更、資本増加を知っていたこと、同5(三)の事実のうち、原告は、南国スカイサーキット株式会社の設立の過程で、昭和六二年六月一六日に、南国スカイサーキット株式会社の定款に発起人として名前を連ね、自ら署名し、実印を押捺していること、定款認証用の委任状にも自ら署名し、実印を押捺し、印鑑登録証明書を交付したこと、同5(四)の事実、同5(五)の事実のうち、原告が、昭和六二年一〇月一二日付で「陳謝及び釈明通知書」と題する書面をタケモト産業宛に送付したこと、被告主張のような文言が記載されていることは、当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実及び一の事実に《証拠省略》を総合すると、以下の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

1(一)  原告は、昭和六〇年一二月一二日、橋田利雄とその出資口数を各一五〇〇口(一口の金額一〇〇〇円)として四国節電有限会社を設立し、その代表取締役に就任していたが、森岡信喜の発案により高知県土佐山田町に国際的に通用するサーキット場を開設することを計画し(以下、本件サーキット場計画という。)、昭和六一年一〇月に、会社の目的に二輪車、四輪車の競技場経営その他を加え、商号も現商号に変更し、取締役に森岡信喜を加え、その後、同年一一月ころには、山本信次郎に協力を依頼し、同年一一月二九日、森岡信喜が取締役を辞任するに伴い、山本信次郎を取締役に加えた。

(二)  この時に総会が開催されたとしても、山本信次郎は出席していないものであるが、山脇憲雄が作成した右総会の議事録には、出席取締役として山本信次郎の氏名が記載され、同人の印鑑が押捺されている。

2(一)  原告と山本信次郎は、本件サーキット場計画を実行に移すため、昭和六一年一一月二九日、地元の土佐山田町に協力を要望し、同町長の要望事項を承諾する旨の返事を受ける等していたが、本件サーキット場計画実現のためには、莫大な資金を必要とすることが予測され、原告及び山本信次郎はもちろん被告にもその資力がなかったため、同年一二月ころから、その資金の調達方を山一興産の山下正吉に依頼していた。

(二)  タケモト産業ないしその代表者である補助参加人は、昭和六一年一一月ころ、山下正吉から本件サーキット場計画実現のために、原告と山本信次郎が資金調達先を探していることを聞き、昭和六二年一月ころには、原告とも会い、本件サーキット場計画に参加し、これを中心となって進めていくことを決めた。

3(一)  原告は、被告の代表取締役兼個人として、また、山本信次郎は、被告の取締役兼個人として、昭和六二年一月二二日、山一興産ないし山下正吉との間で、左記要旨の委任契約を締結した(以下、本件委任契約という。)。

(1) 被告は、本件サーキット場計画の運営等に関する全てを山一興産ないし山下正吉に委任し、山本信次郎は、被告の連帯保証人となる。

(2) 被告は、役員の変更、代表権の変更等に関する会社組織の変更、資本の増加並びに会社運営に関する全ての権限を、山一興産ないし山下正吉及び山一興産ないし山下正吉の選任した者に委ねる。

(3) 山一興産ないし山下正吉は、資金調達、スタッフ編成等を行い、被告は、その資金導入に際しては、山一興産ないし山下正吉が選任した者を無条件で受け入れる。

(4) 被告は、右(2)により山一興産ないし山下正吉が選任した者とは別に契約を締結する。

(二)  タケモト産業ないしその代表者である補助参加人は、昭和六二年一月二八日被告の代表取締役兼個人としての原告、山一興産ないし山下正吉、山本信次郎らと、左記要旨の契約を締結した(以下、本件包括契約という。)。

(1) 山一興産ないし山下正吉は、本件委任契約に基づき、タケモト産業ないし補助参加人を選任し、被告、山本信次郎はこれを承諾する。

(2) 補助参加人は、原告と代表取締役を交替し、原告は、取締役副社長に就任し、山一興産より専務取締役一名を出向させる、被告の役員、職員及び会社組織の編成は、タケモト産業ないし補助参加人の意思によって行うが、被告の資本増加と事業資金の導入を原告によって行うのと同時に補助参加人が被告の代表取締役に就任する。

(3) 補助参加人が被告の代表取締役就任以前の債権、債務については、別紙にて債権、債務不存在の確約書を原告が提出し、山本信次郎がその連帯保証人となる。

(4) 原告が本件サーキット場計画を実行するに際し、被告らは、地元等の折衝等について責任を持つ。

(5) 本件サーキット場計画推進のため必要と認めた場合は、新法人の設立を行うことができるが、資本金、役員構成、業務内容、組織スタッフ編成は合議して定める。

(三)  本件委任契約及び本件包括契約には、被告の社員である橋田利雄も承諾の上で締結されたものであるが、同人は、その当時本件サーキット場計画には参加しないとの意思を表示していた。

4  補助参加人は、昭和六二年二月一日ころ、原告、橋田利雄からその白紙委任状、印鑑登録証明書、住民票等の交付を受けて、本件総会を開催したようにし、本件決議をした旨の議事録を作成し、同月五日、その旨の登記を了した。

5  本件サーキット場計画は、タケモト産業が株式会社ジーエイと本件サーキット場のコースの設計及び監理契約を締結し、その費用として金六〇〇〇万円を支払い、用地の買収を行う等して進行していった。

6  原告及び山本信次郎は、昭和六二年三月三日、4の各登記がなされていることを知ったが、これについて、タケモト産業ないし補助参加人に対し、直ちに異議を述べる等の措置をとっていない。

7(一)  右買収用地の一部である松本利彦、毛利英一、中西和子所有の各土地に関する昭和六二年三月二六日付けの国土法上の土地売買等届出書は、山本信次郎がタケモト産業不動産部長新原栄一と相談しながら作成したものであり、右各書面の買主欄には、「有限会社四国サーキット代表取締役竹本重雄」と記載されている。

(二)  また、同年四月四日ころ、原告は、高知県知事から右国土法土地売買等届出書に対する不勧告通知書を受領したが、その名宛人は、「有限会社四国サーキット取締役竹本重雄」と記載されている。

8(一)  本件用地買収の主体は、タケモト産業であり、タケモト産業がすべて買収資金を提供し、田村要が野々村大正、大西フサエ及び山本信次郎とともに仲介したものであって、山本信次郎も他の三人とともに、昭和六二年三月から同年一一月ころまで仲介交渉に関与し、タケモト産業から二〇名の地権者のうち約九割分の少なくとも約金七八〇万円の仲介手数料を受領した。

(二)  右仲介により、香美郡土佐山田町北滝本字小倉北平四一七番イ一その他の土地については、昭和六二年四月一五日に被告の所有権移転請求権仮登記がなされ、昭和六二年七月二二日にはタケモト産業への所有権移転登記がなされている。

9(一)  補助参加人は、国際サーキット場の建設運営を行うのに有限会社では支障があるため、昭和六二年五月ころから、新会社南国スカイサーキット株式会社の設立手続に着手し、その結果、同年六月には発起人全員の同意を得て、定款認証手続を完了したが、原告は、その過程で、同月一六日には、南国スカイサーキット株式会社の定款に発起人として名前を連ね、自ら署名し、実印を押捺し、定款認証用の委任状にも自ら署名し、実印を押捺し、印鑑登録証明書を交付した。

(二)  その後、原告は、同月一八日付けのタケモト産業代表取締役補助参加人宛の書面で、本件包括契約に違反することを理由として、発起人としての署名、捺印を無効とし、抹消する旨通告した。

10  原告は、昭和六二年二月から五月まで本件役員変更等の登記の存在を知った後もタケモト産業から送金されてくる毎月金三〇万円の金員を受領していたが、9記載の書面を受領した補助参加人は、六月以降その送金を一時中断した。そのため、原告は、同年一〇月一二日付けで「陳謝及び釈明通知書」と題する書面をタケモト産業代表取締役補助参加人宛に送付し、9記載の書面の記載内容を撤回する旨陳謝し、同年一〇月から同年一一月までの間、再びタケモト産業から送金されてくる毎月金三〇万円の金員を受領した。

右金員の趣旨は、原告の給料ないしは被告の経費であるが、被告の経費として使用されたかどうかは明らかではない。

右認定の各事実によれば、被告の社員である原告及び橋田利雄、被告の取締役であった山本信次郎らは、被告の役員の変更、代表権の変更等に関する会社組織の変更、資本の増加並びに会社運営に関する全ての権限を包括的にタケモト産業ないし補助参加人に授与することを承諾したことになるものと解され、補助参加人は、右授与された権限に基づき、本件総会を開催したことにして本件議事録を作成し、本件役員変更等の登記を実行したものであって、原告は、本件役員変更等の登記がなされていることを知った後にもタケモト産業ないし補助参加人から、月額金三〇万円の送金を受け続け、補助参加人が新会社南国スカイサーキットを設立するについては、その定款に発起人として署名捺印し、また、山本信次郎は、タケモト産業が主体となって行った本件用地買収につき、田村要、野々村大正、大西フサエとともに仲介し、タケモト産業から多額の金員を受領する等して、補助参加人が代表取締役となった被告の本件サーキット場計画に消極的に協力する態度を示し、さらに、原告は、新会社南国スカイサーキットの設立については、本件包括契約に違反する旨タケモト産業に申し入れをする等しており、本件役員変更等についても異議があれば、その旨タケモト産業に申し入れをすることは容易であると考えられるのに、請求原因6記載の仮処分申請をするまでの間、何ら異議を述べていないことになる(原告は、山下正吉を通じて、本件役員変更等について元に戻すように交渉したかのように主張するが、右に沿う原告本人の供述は信用し難しい。)そうすると、原告は、本件決議の内容については、予め承諾していたものと認められる。

右によると、本件包括契約書、本件委任契約書が有限会社法四二条に所定の書面に該当するか否かはともかく、右各契約により本件決議の内容について予め承諾し、本来被告の社員として右内容の決議をなすべき義務を負っていたと解される原告が、本件総会が現実に開催されていないことのみを理由として、本件決議の不存在を主張するのは、被告の経営権の争いの道具としてであって、権利行使に藉口するに過ぎないものと解され、原告の従前の行動からして著しく信義に反するものというべきであるから、権利の濫用として許容し難いものといわざるを得ないところである。

三  以上によると、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 野尻純夫)

<以下省略>

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